この本この一節⑥
「国家の統計破壊」 明石順平 集英社インターナショナル新書
2019年8月4日記
2018年暮れに厚労省発表の「毎月勤労統計」調査での不正発覚以降、2019年1~3月国会では統計不正問題が大きく取り上げられた。報道量も多かったが、政府ののらりくらり答弁を突き崩すだけの追及が野党側もできず、消化不良で参議院選挙に突入してしまった。
本書は、弁護士でありながらアベノミクスの欺瞞を統計資料も駆使し調査研究していた著者が、毎勤統計不正発覚を機に、改めて政府による統計数字の都合の良い改変と今回の統計不正における政府説明のウソを明らかにした書である。
学問的なことについては、諸説あることを認めながら、著者明石氏の分析および立件民主党小川淳也衆議院議員指摘の政府による統計いじりの指摘は説得力あるものと感じる。
『明石順平氏の指摘』
実質賃金下落は新規労働者増による平均賃金ダウンによるという説明(安倍首相も国会答弁で多用)のウソ。平均値の問題であれば名目賃金も下がっているはずだが名目賃金は下がっていない。ただ単に物価上昇が賃金上昇を上回ってしまったという事実を認めない姿勢のせい。
GDPを国際的算出基準に合わせるとの理由で算出手法を改定しているが、かさ上げするための「等」で変えた姑息なやり方(出版社経由で内閣府に説明を求めても、明確な説明できない)。また、家計消費のかさ上げ(2013年までは世帯数・消費動向指数と家計最終消費支出はほぼパラレルに推移していたものが、2015年以降は家計最終消費支出が異常に高い数値で乖離が拡大)に対する説明ができない。
『小川淳也議員の指摘』
毎勤統計における常用労働者の定義変更をひっそり行い、数字を上げるようにした。(「臨時または日雇で前2か月の各月に18日以上雇われた者」を統計対象から2018年1月以降外した」調査産業計で106万人減少、飲食サービス、建設、運輸郵便等で140万人弱減、医療福祉で60万人増など)このことにより、賃金平均値は上がるが、この説明を厚労省はしてこなかった。
第2次安倍政権で統計手法見直し53件、うちGDP影響分38件、さらに38件中10件は未諮問審査事項として統計委員会申請なしに見直しさせた。
この他、本書では2015年10月の財政諮問会議での麻生財務大臣の不自然な統計課題の指摘とそれに対応する各省庁のあわてぶり=例示しているのは修正エンゲル係数なるものを総務省統計局消費統計課長が新開発し、分母を実質消費支出から実質可処分所得に変更したあたふたぶり(分子を実質食費と実質をわざわざつけるのも変)も指摘している。
第7章「安倍総理の自慢を徹底的に論破する」と題して「総雇用者所得」「就業者数」などを論じている。徹底的に論破は、評価が分かれるところだろうが、一国の総理大臣が国会で国民の皆さんが誤解してはいけないので丁寧に説明するといって、質問にないことも含め長々と答弁する、その内容に関しコメントしている点は同感する部分が多い。
曰く、
2012年と2018年の雇用者所得の差は医療福祉関連雇用者数増加によるもので、日本社会の高齢化による前々からの傾向。アベノミクスの効果ではない。
同じく就業者数の増加も、年代別データでは65歳以上269万人増、15~24歳110万人増と高齢者と若年者の非正規労働数増加が要因と分析できること。および年代別増加あるいは減少の傾向は2011年ころから同様の傾向で推移しており、アベノミクスの効果とはいいがたい。
株価の上昇は、日銀とGPIFによる買い支えで下落局面を支え続けているだけ。 等々
この一節
第6章「ソノタノミクス」でGDPかさ上げ(P159~163)で記述されている平成31年2月18日衆議院予算委員会での立憲小川淳也議員の質問が津減の議事録。長いので転記は省略するが、要旨は次のとおり。
〇GDPは二次統計でさまざまな基幹統計で出てきた数値の合成。
〇第2次安倍政権になってGDP計算にかかわる基幹統計を見直した数
〇53の統計手法見直し、そのうち38がGDPに影響、そのうち10は統計委員会未諮問事 項としてトップダウンでやらせた見直し(民主党政権3年間では見直し16件うちGDP関連9件)
家計調査:カード、電子マネー記入欄増やし6%家計消費増の試算
個人企業調査:これまでの4業種から全産業に拡大で賃金水準上がる
科学技術調査:今までなかったサービスの開発に関する研究費を追加
作物統計:そば、菜種追加とともに主要生産県から全国生産推計手法に変更
木材統計:これまで47件を主要30県限定に変更
鉄道車両統計:これまで10名以上94社対象から全事業所に拡大
商業動態調査:家電、ドラッグストア、ホームセンター合計十数兆円売り上げを捕捉
〇国際基準への適合とその他項目に加え、指摘した変更でGDPかさ上げされた