年金生活に入った普通の市民感覚の吐露(本・映画)ーこの本この一節 特別編「サピエンス全史」「ホモ・デウス」ー 投稿通算18回目

 

     「サピエンス全史」「ホモ・デウス」から考える

                             2019年7月8日記す

 今回は、特別編、長編上下計4冊全体を通じた読後感想です。

 

 ユヴァル・ノア・ハラリ(Yuval Noah Harari)著の世界的ベストセラーであり、人類へ課題提起した名著を2019年4月~6月で改めて通読した。両書とも比喩が多い部分があり、速読してしまった部分も多々あったが、両書を通じて著者ユヴァルが警告したいこと、それを普通の市民としてどう考えるか、を本稿で整理してみたい。
*そもそも、2016年秋に「サピエンス全史」でユニークな歴史観をユヴァルが著しているということを三菱商事の知人から聞いて、早速買い求め読み始めたが、農業革命の部分を読み終えたところで頓挫していた。2019年4月以降、時間が大いにある身となったのを機に改めて「ホモ・デウス」と両方を読破しようと考えた次第。

1. 両書の超概要
 「サピエンス全史」

(1) 現在、地球上で世界を意のままに操っている人類が、どのように進化してきたのかを概観し、現時点の科学工学の進展から超ホモ・サピエンスの時代が来ると予測する


(2) ヒト科ホモ属にも種は多々存在したがホモ・サピエンスが唯一ホモ属のなかで種として生き残ったのは、7万年前の認知革命による


認知革命:比類なき言語を持つことにより、新しい思考・意思疎通方法が登場
     情報を共有し事態に共同で対処可能
     見知らぬ同士(150人以上の集団)の協力(社会活動)普及
BC1万年頃までは狩猟採集民であり、認知革命によりホモ・サピエンスは地球上に絶滅種を多く作ってきた罪はある


(3) ホモ・サピエンスはBC9500年~BC3500年頃地球上の各地で土地々々の気候に合った適地栽培として農業を発明し、農業革命を起こす
農業革命により
 人口爆発と飽食エリート層誕生
  狩猟採集より身体負担大きくなった、定住化により飢饉、病害、戦争も発生
  100人規模から1000人規模の村形成可能、DNA複製数飛躍的増
  農業革命は徐々に進行したため不可逆な状況となった
 村→町→都市と養える食料確保し、社会的秩序形成が可能に
  想像上の神話による一致した考え方形成(法典、宗教など)
 書記体系=官僚制度の発達(想像上の秩序の共同主観化)
    BC1000年頃には「貨幣」(経済)「帝国(政治)「宗教」の3つ一組の法則に支配された集団として全世界を創造することができるようになる


(4) ホモ・サピエンスは15世紀末頃から科学革命を起こし現在に至る
科学革命により、それ以前の知識と伝統とは異なる思考が発達
 「力」「資源」「研究」のサイクルで新テクノロジー開発を目指す
 科学研究は、宗教、イデオロギーと提携した場合にのみ栄える
 産業革命は第2次農業革命と同じ(投資→市場拡大→経済成長→投資の循環)
 産業革命前は家族とコミュニティーが人間社会の基本的要素だったが、産業革命後は国家と市場が取って代わる


(5) 次なる革命がもしあるとすれば超ホモ・サピエンスの時代となるかもしれない
自然選択の法則を超える知的設計による選択=生物学的革命
「生物工学」「サイボーグ工学」「非有機的生命工学」が自然選択から知的設計に替わりうる

 「ホモ・デウス

(1)「サピエンス全史」で見たように、世界を征服したホモ・サピエンスが、生き物はアルゴリズムという定義に到達し、「不死」「幸福」「神性」を求め、究極は神へのアップグレードをめざすと予測する

*アルゴリズム:計算し問題を解決し決定に至るために利用できる一連の秩序だったステップ


(2)科学革命の現在の進展では、生化学的アルゴリズムと電子工学的アルゴリズムがデータ至上主義へと移行しつつあり、20~30年かけてデータ至上主義革命が進んでいくと予測する


(3)その結果、はじめは人間によって開発されたアルゴリズムが、→成長するにつれ自らの道を進み、→人間がかつて行ったことのない場所まで行き、→さらには人間がついていけなくなる場所まで行く、という事態も考えられる
(人間からアルゴリズムへと権限が一旦移れば人間至上主義は意味を失い、次の3つの相互関連の前に影が薄くなる)
  ア.生き物はアルゴリズムであり、生命はデータ処理であるという教義
  イ.知能は意識から分離しつつある
  ウ.高度な知能を備えたアルゴリズムが間もなく私たちのことを知るようになる(かもしれない)


(4)「ホモ・デウス」の大意を(1)~(3)のように大胆に要約したが、以下の指摘も重要と考える。
「認知革命」「農業革命」「書字・貨幣発明」「科学革命」を経た人類(ホモ・サピエンス)は、人間至上主義が価値観の太宗を占めていた。
   それは、中世までは、意味と権威の源泉は『神のおぼしめし』であり、森羅万象の意味は『神が自然の摂理を果たす』としていたものを、科学革命の進展によりいわば人間至上主義革命といえる変化がおき、意味と権威の源泉は『人間の感情』となり森羅万象の意味は『人間性が果たす』と考えるようになった。これは政治・経済・教育・芸術でも同様で、『一人一人が価値ある個人で、その自由な選択が権威の源泉』という価値観(信念)が、時代遅れになりかねない3つの進展がある。
① 人間は経済的・軍事的有用性を失い、政治・経済制度は人間にあまり価値を付与しなくなる。
② 政治・経済制度は、集合的人間には価値を見出すが、個人としての人間には価値を認めない
③ 政治・経済制度はアップグレードされた一部の新たなエリート層にのみ価値を見出す

 

2. 両書を通じてユヴァルが伝えたいこと(私感)
(1) 太古の昔(何十億年単位)からの地球の歴史のなかで、人類(ホモ・サピエンス)の歴史は、たかだか7万年前の「認知革命」から進化をとげ今や地球上の最強の生物となり、他の生物を絶滅させたり駆逐してきたこと、「科学革命」により環境を極めて短時間で変化させ、現在加速度的に悪化させている現実がある。


(2) そのなかで、特に進展・進化した生物工学と電子工学により人間をアップグレードする=自らの生化学的な基盤を制御できるようにする動きが不可逆的に進行している。


(3) 約1万年前から始まった「農業革命」が実は狩猟採集より苦労が多かったにもかかわらず、徐々に徐々に進行したため狩猟採集には戻れなかったと同様、今進行しているデータ至上主義革命も20~30年かけて進むことが想定されるので、人間がついていけなくなる=アルゴリズムへ権限が移り個人重視の人間至上主義が崩壊する事態が現出する可能性が高い。


(4) この予測が本当か否か、予測するこの方向が価値あるものか否か、予測するこの方向が現実となるとき政治・経済・社会はどうなっているか、を現時点の英知を集めて整理しておくべき。

 

3. ユヴァルの課題提起をどう考えるか
(1) 現実に、生物工学の分野では、中国の学者が遺伝子操作により双子の人間を誕生させることに成功したとの報道があったり、電子工学の分野ではAIの発達により、人間の働く分野・範囲が従来の価値観から革命的に変化するだろうとの予測がある。


(2) 2019年現在では、電子工学でのAIの発達は社会・経済活動などの分野で人間の活動を革命的に補助・支援し、人間の幸福へ寄与する、AIを制御するのは人間でありAIが暴走するような事態は起こりえないとの考えが大層といえる。


(3) 生物工学でも遺伝子操作の研究、脳科学での物理的物質(セロトニン等)による感情のコントロール研究などが進んでいるが、倫理面での制御が不可欠との考えが大層である。


(4) しかし、特にAIの分野ではユヴァルの指摘・懸念は十分起こりうる事態であり、今の世界・社会が性善説を前提にできない状況を考えると、意図的ではなくても当事者が思ってもみないきっかけでAIが人間の制御を突破する可能性は大きい。


(5) 生物工学分野でも、ユヴァルが整理したこれまでのWEIRDに加え、インド・中国の台頭が価値観を多様化させ、WEIRDの価値観が絶対ではない時期が来ることを想定しなければならない。
  *Western     西洋の
   Educated    高等教育を受けた
   Industrialised 工業化された
   Rich      裕福な
   Democratic   民主的な


(6) 時間はあまりない。現在、人生100年の未来が50年以上ある世代が人間としての価値を自ら納得して感じられるような社会・世界を維持するために、生物工学、電子工学だけではなく、社会科学、政治・経済・宗教などあらゆる分野でユヴァルの警告を真剣に取り上げ解決方向を見出す努力をしてほしい。
以上

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