年金生活に入った普通の市民感覚の吐露(時事)  -そもそもこれでいいの-⑲ 日米貿易協定 政府説明の欺瞞 通算投稿37回目

                                          -そもそもこれでいいの-⑲

                                日米貿易協定 政府説明の欺瞞    通算投稿37回目

                             2020年1月4日記す

 昨年12月臨時国会で批准した日米貿易協定が2020年1月1日発効しました。
 2018年9月、安倍首相・トランプ米国大統領間の首脳会談で交渉開始が合意され、その時日本政府はFTA(Free Trade Agreement:自由貿易協定)ではなくTAG(Trade Agreement on Goods:物品貿易協定)なる造語を恥ずかしげもなく公開し、小手先でごまかそうとしたことに端緒を発し、協議経過は明らかにせず、交渉妥結後は安倍首相がWin Winの結果と喧伝した代物です。
 第一弾は貿易協定(TRADE AGREEMENT)ですが、4か月後の再協議とそれに続く協議で非関税障壁、サービス、情報、金融等の交渉も予定され、結果FTAEPAであることが明らかになっています。
*TAGなる単語は何処へ行ったのでしょう

 妥結後明らかになった協定文書を読み解くと、どこがWin Winなのか全く判りません。日本の大幅譲歩の妥結結果としか読めませんし、報道で言われているように、両国共関税撤廃90%以上とならないWTO違反の妥結結果だと断じざるをえません。

 

 素人でもわかる大幅譲歩の内容および日本政府の説明の無理筋を2題記します。

1. 牛肉セーフガード(SG)発動基準のTPP11との非整合性
 米国産牛肉輸入に関する関税削減・撤廃に関しては、TPP11合意と同内容で妥結したと政府は胸を張っています。
 確かに関税引き下げの期間、数値は政府説明通りですが、SGに関してはアメリカと特別な約束をしたと判断できます。
ア. 日本のSG発動数量基準をアメリカとの取り決めをふまえ、TPP11各国と再協議(TPP11側の数値を引き下げる)するとしていますが、交渉になるとも思えず、現実的な説明ではありません。
イ. SG発動数量を超え、SGが発動された時、アメリカとは10日以内に発動基準数量の引き上げ協議に入ると協定しました。一方、TPP11では、最初の10年のSG発動基準数量は年2%づつ増加はしますが、予め決めた数量で、再協議の規定はありません。


2. 自動車および自動車関連部品の関税撤廃に関する日本政府説明の欺瞞
 日本政府が、農業交渉とともに譲れない一線としていた自動車・同部品の関税撤廃に関する合意は協定に明記されていません。
 協定文書は本協定、附属書Ⅰ、附属書Ⅱからなりますが、本協定、附属書Ⅰは英文・和文両方があります。附属書Ⅱは英文のみです。
*附属書Ⅰは日本の、附属書Ⅱはアメリカの関税および関税に関連する規定
 附属書Ⅱの和文がないこと自体けしからんことですが、英文のみの附属書Ⅱの7項にのみ自動車・同部品に関する合意文書が出てきます。
7.Customs duties on automobile and auto parts will be subject to further negotiations with respect to the elimination of customs duties.
 外務省が出している協定に関する説明書では、
「自動車及び自動車部品の関税については、関税の撤廃に関して更に交渉する(アメリカ合衆国の一般的注釈7)」とされています。

 この附属書Ⅱの英文、外務省の説明(日本語)を読んで、関税撤廃が前提である、撤廃は約束されていると読むことができる人は、よほどのお人よしでしょう。既に5%しか関税はないわけですから、それをゼロに向けて交渉することは書いてありますが、交渉の末ゼロにすることを約束はしていません。あくまで交渉することを書いているだけです。
 しかるに、予算委員会などで茂木担当大臣は、首脳間で約束しているから撤廃が前提であるとか、with respect toとなっているから撤廃が前提であるとか、全く非論理的な答弁を繰り返していました。日本側のメモでも良いから首脳間合意のやり取りのエビデンスを示せということや、英文解釈答弁についての質問主意書に対する答弁書でも、全く論理的な説明ができていません。
 「政府を信用しろ」という思考が根底にあるのでしょうが、これまでの安倍政権の所業、トランプ大統領言いなりの安倍首相の姿勢などから、肝心な部分は、政府の言うことは信用できないということは過半数の国民の思いでしょう。

 以上2題のみを抽出してコメントしましたが、既に発行している協定です。これからは、実際の場面で、鋭いチェックを入れ、政府説明の矛盾、非論理性を暴き、対等な協定にしていく動きを支援していく必要があると思います。

 以下に、自動車・同部品に関する英文和訳、を質問主意書に対する閣議決定答弁書(あきれた答弁内容)を載せておきます。


TRADE AGREEMENT BETWEEN JAPAN AND UNITED STATES OF AMERICA
ANNEXⅡ
TARIFFS AND TARIFF-RELATED PROVISIONS OF THE UNITED STATES
General Notes of the United States

7. Customs duties on automobile and auto parts will be subject to further negotiations with respect to the elimination of customs duties.

(筆者和訳)

日本国とアメリカ合衆国との間の貿易協定
附属書Ⅱ
アメリカ)合衆国の関税および関税に関連する規定
合衆国の一般注釈(一般注意事項)

7.乗用車および自動車部品の関税は、その関税撤廃に関して次回以降のさらなる交渉による。

general notes 一般注釈
customs duties 関税
subject to    従属する、従う
further      (時間が)先の
negotiations   交渉
with respect to  ・・・に関して、・・・について
elimination    除去=撤廃



令和元年十月二十八日提出
質問第五七号
茂木敏充外務大臣の日米貿易協定の附属書についての発言に関する質問主意書
                              提出者  今井雅人

 茂木敏充外務大臣は、二〇一九年十月十一日の衆議院予算委員会において、日米貿易協定の附属書二の一般的注釈7にある「ファーザー ネゴシエーションウイズ リスペクト ツー ザ エリミネーション オブ カスタムズ デューティーズ」の和訳について、「ウイズ リスペクト ツー」であり「リガーディング」ではないので、「関税撤廃というものを前提として、その時期がいつになるかについて今後協議をする、これが正しい英語の読み方」という答弁をされています。このことを踏まえ、以下質問します。
一 「ウイズ リスペクト ツー」と「リガーディング」の二つの言葉は同義語であると考えますが、なぜ「リガーディング」ではなく「ウイズ リスペクト ツー」であると関税撤廃が前提ということになるのか、二つの言葉の日本語の意味を、政府の見解として示されたい。
 右質問する。

 

 

令和元年十一月八日受領
答弁第五七号
  内閣衆質二〇〇第五七号
  令和元年十一月八日
内閣総理大臣 安倍晋三
       衆議院議長 大島理森 殿
 衆議院議員今井雅人君提出茂木敏充外務大臣の日米貿易協定の附属書についての発言に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

 衆議院議員今井雅人君提出茂木敏充外務大臣の日米貿易協定の附属書についての発言に関する質問に対する答弁書
一について
 お尋ねの「二つの言葉の日本語の意味」については、条約文の解釈は、条約文等の文脈により、かつ、その趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に行うものであることから、一概にお答えすることは困難である。御指摘の答弁は、日米貿易協定の交渉において、関税の撤廃を前提として更に交渉することが確認されており、そのふさわしい表現が日米貿易協定附属書Ⅱアメリカ合衆国の一般的注釈7における「Customs duties on automobile and auto parts will be subject to further negotiations with respect to the elimination of customs duties.」という文言になったとの趣旨を述べたものである。