社会観察雑記帳 ーこの本この一節ー 「デジタル・ファシズム」 通算投稿96回目

             この本この一節

                             2021年12月26日記す

           堤美果著 「デジタル・ファシズム

 

この一節 第9章

『AIは、問いをくれない。くれるのは答えだけ。もし人間から「問う力」がなくなれば、「考える力」も失ってしまうだろう。

 人間にとって大事なのは、「問う」ことなのだ。』

 

 著者堤美果さんは、現役の時講演を聞いてファンとなったジャーナリストです。アメリカ在住が長く、アメリカ社会・経済の実態を分析し、そのうえで新自由主義がはびこる西側世界、日本社会に鋭く警鐘をならす著書を矢継ぎ早の発行しています。

 私は、「政府は必ず嘘をつく」「政府はもう嘘をつけない」を5~6年前に読んで、今回「デジタル・ファシズム」を読みました。この本は、全9章でⅠ.政府が狙われる、Ⅱ.マネーが狙われる、Ⅲ.教育が狙われるの3部構成で、デジタル化が遅れた日本を標的にした外部からの侵略・浸食戦略を鋭く分析しています。

 「今だけ、金だけ、自分だけ」という日本の新自由主義を信奉する実力者・権力者の狙い、GAFAに代表されるグローバル資本の目的がわかりやすく解説された良書です。

 ちなみに、「今だけ、金だけ、自分だけ」という言葉も堤未果さんから教わった表現ですが、日本を食い物にしようと企んでいる勢力を表す「いい得て妙」な表現です。

 

 この一節は本の最後、第9章.教科書のない学校に出てくる記述ですが、教育分野にとどまらず社会全体に蔓延している「AI化依存」傾向に一石を投じる表現と思い、選びました。

 世の中、ビッグデータをはじめあらゆる事象をデータ化し、それをAIに解析させてAIに方向や解答を求める手法が主流となりつつありますが、この一節にあるように、まさにAIは「問い」はくれません。人間あってのAIだという当たり前のことを思い出させてくれる一文で、改めて新鮮でした。

 

 Ⅰ政府が狙われるでは、『個人情報は「性悪説」で守るべし』というエストニアでの例からの教訓や、『デジタル政府に必要なたった一つのことは「公共」の精神』という教訓を実証している台湾(オードリー・タン大臣)の例など、本の題名から類推できる教訓は多々ありましたが、冒頭の一節が妙に心に引っかかった次第です。

*ちなみに、「日本では政府と国民との間に根強く横たわる不信感」だとか、台湾では「政策決定プロセスをオープンにし、~中略〈透明性〉〈信頼〉〈協力〉の3つをルール化している~」といった文言も非常に示唆に富む提言と感じたことは付言します。