年金生活に入った普通の市民感覚の吐露(時事)-そもそもこれでいいの⑫- 安倍政権の憲法議論の真の狙いを見抜こう 通算投稿26回目

                                 -そもそもこれでいいの⑫-
        安倍政権の憲法議論の真の狙いを見抜こう 通算投稿26回目

                                                                                                              2019年10月8日記


 10月4日、7月末の参議院議員選挙後の国会がようやく始まりました。

 安倍総理は、4日の所信表明演説の最後に、憲法議論に触れ「憲法は国創りの道しるべ」と定義し、令和の時代の新しい国創りのために憲法改正を議論しようと締めくくりました。これは、参議院選挙のアピールでも言っていた、「憲法を議論する政党か、しない政党かの選択でもある」に通ずる主張ですが、そもそも7月の選挙での争点に関する世論調査憲法改正は優先順位が著しく低く、選挙結果をもって国民の賛同を得たという論理自体がおかしいものです。しかし、安倍晋三個人、また安倍政権としても憲法改正は悲願であり、憲法議論を今国会から本格化させようと与党が動き出すのは間違いないでしょう。
 そこで、国会を監視する国民の立場から、どのような視点で憲法議論を注視すればよいか私見を投稿します。

 

 先に本ブログのこの本この一節(憲法改正の真実)でも紹介しましたが、憲法を変えようとする政治勢力「どんな必要があって、何をしたいため、どういう国内的・国際的条件のもとで、どこをどう変えたいのか」を示して議論をすすめることが本来のやり方だと思います。その意味では、自民党は2012年(H24年)に憲法改正草案を決定していますし、2017年12月には自民党憲法改正推進本部が論点とりまとめとして改憲4項目を出しています。(党決定までの手続きはしていない)
 しかし、「どこをどう変えたい」は出てきていますが、「どんな必要があって」「何をしたいため」「どういう国内的・国際的条件のもとで」の論拠、説明が説得力に欠けるものです。自衛隊違憲論争に終止符をうつなど、一応論拠らしきものは示していますが)

 

 今国会では、憲法審査会での議論をこなすこと、憲法改正に必要な「国民投票法」を成立させることが政権・与党の目標でしょうが、その先にある憲法改正の中身を横に置いて、実施ありきの手続きだけを先行決定することは大変危険であり、間違った進め方です。手続きも中身もセットで議論をするならするべきでしょう。

 

 前置きが長くなりましたが、以下に自民党改憲4項目に対する意見を記します。
1. 自衛隊の明記
 自民党案は、9条1項、2項は現状のままを維持したうえで、9条の2を新設し自衛隊を明記するものです。理由は、戦争の放棄、軍備および交戦権の否認は維持したままで、自衛隊違憲論を解消するため新条項で自衛隊を明記するというものです。


〇 法曹界では、後法は前法より優先されるとされることは当然ということです。従って、加筆した9条の2により9条は書き換えられたことと同じであり、自衛隊には9条は及ばないとの解釈が危惧されます。また、国防という名分で自衛隊の活動範囲拡大、人権制約、徴兵制なども将来立法により可能となります。
〇 単に自衛隊明記を加えるだけで、今と何も変わらないという説明は嘘だということを見抜かなければなりません。


2. 緊急事態条項
 自民党案は、大災害で国会が機能しなくなった事態に備え、(1)行政権一時的強化で法律と同等の緊急政令定められる権限を持つ(2)議員の任期延長できる、を憲法に加えるというものです。


〇 現行憲法では、緊急時対応として「参議院の緊急集会」を定めています。また、大災害には、「災害対策基本法」をはじめ各種特別措置法、国民保護法なども定められています。任期延長も二院制と繰り延べ投票で対応可能です。
〇 なにも憲法に定めなくても現行法律で対応可能であり、いずれ大災害限定から有事の事態まで拡大する意図が見える長期戦略だということを見抜かなければなりません。

 

3. 合区の解消
 自民党案は、合区制度はその選挙区に住む有権者の投票機会を奪うとして、参議院議員を少なくとも一人各都道府県から選出できると憲法に明記すべきというものです。


〇 投票価値の平等を根拠とした司法判断に沿った現行合区制のはずであること、国会議員は国民の代表で都道府県の代表ではないこと、投票価値の平等を最優先とするブロック制・比例代表制の組み合わせの制度に変更すればよいことなどから、自民党の党利党略の案と断じます。不要かつ有害な案です。


4. 教育の充実の明記
  自民党案は、26条に個人の経済的理由にかかわらず教育を受けられる環境整備を行うよう国に努力義務を課すとの条文を加筆するとしています。(日本維新の会が提起している教育の無償化の表現は財源問題から見送っています)


〇 これも合区解消と同様自民党の党利党略のたぐいではないでしょうか。9条の2を通すためのアメのような気がしてなりません。もともと教育を受ける権利は26条1項に明記されており、具体化立法を法律で定めればよいだけの話です。財源問題は憲法の問題ではありません。

 

 冒頭、安倍総理所信表明演説を引用しましたが、憲法は「政府など権力を行使できるものを国民主権として監視・制限する性格の最高法規ということが、専門家の一致するところです。決して「国の将来の道しるべ」の性格ではありません。


 また、安倍政権は、解釈改憲により集団的自衛権容認を強行していること、憲法で定められている臨時国会召集要請に3カ月間全く応えず、開催したと思ったら冒頭解散したことなど、現行憲法遵守義務を果たしていないといわれても仕方のない政権です。森友・加計問題のような失態だけでなく、共謀罪特定秘密保護法教育基本法など重要法案成立強行などにみられるように、強権による政権運営で国民を二分しているような政権に憲法改正を発議する資格はないということを肝に銘じ、今後の展開に対処していかなければなりません。