社会観察雑記帳 -市民感覚の何かおかしい74-  通算投稿116回目 防衛力増強の説明不足・報道不足が世論をミスリードしていないか?

    防衛力増強の説明不足・報道不足が世論をミスリードしていないか?

                                                                                                                        2023年2月3日

   1月末から連日国会の予算委員会で基本政策の基本質疑が行われている。
   この中で、今国会の最大の論点である防衛力増強、方針変更、費用倍増に関し、岸田首相の説明や報道の量・質が全くなっていないので、そのことについて触れたい。

 

 政府は年末の国家安全保障3文書の改定をもって方針・戦略の変更、内容、費用をセットで公表したとしている。しかし、具体的内容を岸田首相や浜田防衛相から国民に向け能動的に説明しているとは言い難い。また、国会論戦でも防衛上の保秘等を理由に具体的な説明はできないとの答弁が目立つ。
 岸田首相が反撃能力保持(敵基地能力攻撃を言い換える小手先変更までして)、防衛費倍増(GDPの2%程度)を打ち出してから、年末に内容、予算セットで明らかにし説明するとして、臨時国会ではほとんど議論されず、3文書発表後も時間をとった国民向け説明はなく、通常国会での野党質問にも具体的回答を拒んでいるのは約束違反であるし、国民への詐欺行為に等しい。


 メディアの世論調査では、10~12月段階では43兆円までの防衛費増加に賛成が多数(10月産経62.5%、NHK55%、読売51%)を占めていたデータはあるが、防衛増税等が明らかになって以降の1月世論調査では賛成・評価するはすべての調査で過半数を割っている(産経45.8%、読売43%、JNN22%、朝日29%)。逆に、反対・評価しないは、産経48.3%、読売49%、JNN71%、朝日66%と、反対が賛成を大きく上回っている。
 防衛増税はさらに反対の割合が高く、岸田首相は国民に向け、具体的内容とその理由、予算をしっかり説明するべきではないか。

 

 1月31日予算委員会共産党の志位委員長が反撃能力について政府を質した。
 年末公表の文書で反撃能力として保持する兵器として
 〇 12式地対艦誘導弾能力向上型 射程が200Kⅿから1000Kⅿ
 〇 高速滑空弾          射程 2000Kⅿ?
 〇 極超音速誘導弾 マッハ5以上 射程 3000Kⅿ
 〇 トマホーク 米国から購入   射程 1600Kⅿ
保有予定数量や配備地域先を質問したが、保秘を理由に無回答
 また、敵への脅威や米軍の統合防空ミサイル防衛参加、専守防衛逸脱等基本的考え方についても絵空事といえる答弁であった。
 曰く、G7はじめ多くの国が理解を示した、日本独自の指揮命令系統で統合防空ミサイル防衛を行う(米軍と協力はするが)、専守防衛は堅持する、と。
 
 これまでの米軍依存や実績から見て日本独自の防衛システムが遂行できるとは思えないし、あり得ない。先の反撃能力保持の装備は中国はこれまでより脅威を感じるかもしれないが、抑止力を持つレベルの増強とはとても思えない。何よりも専守防衛ではなく、先制攻撃可能とみなされるリスクが極めて大きい戦略であろう。

 

 こうした3文書の中身を具体的に報道する大手メディアも皆無であるし、野党が指摘する防衛力増強の危うさ、優先順位の齟齬、内容の検証、理由の非合理性、憲法等現行法令や外交関係との不整合等々、一切報道されていないことは異常事態であるし、一国民として非常に憂うものである。

 

 正直に、中国に対する抑止力としてこれだけの装備を持つ、米軍との協力はこうなる、米国からの購入も含め兵力増強にこれだけ予算を計画する、その後の弾薬や維持費、更新コスト等はこう考えている、そして、その財源はこうする、ということを明らかにし、国民の過半が賛成すればそれを実行すれば良いし、反対が多ければ修正することが必要であろう。
 とにかく、岸田政権の今のやり方は、国民は知る必要なし、言葉を駆使してごまかしてでも採決に持ち込んで手続き正当化をはかろうとしているとしか思えない。
 そして、それを黙認するメディアが輪をかけて日本を奈落の底に落とす助力をしているとしか思えない。

 

 今国会でもう一つの重要な論点となっている少子化対策の方が防衛力増強よりよほど優先度が高いし、緊急性も重要性も高いのは、誰が見ても自明の理ではないか。

 防衛に関しては、専守防衛に徹してきた現行方針・戦略を堅持し、外交戦略(例えば、寺島実郎氏提唱の国連アジア太平洋本部を沖縄に誘致など)を明確にする方がよほど今後の日本をめぐる緊張緩和と平和に資すると思う。