安倍・菅の大罪、自公政権は一度リセットを
その1 埋没日本にした責任を取れ
2022年5月19日
5月11日に寺島実郎氏の講演を聴いた。その概要は後掲資料を参照してほしいが、論旨は、工業生産力モデルで成功した戦後20世紀の日本の成功は、21世紀の20年間で埋没し、今や世界GDPシェア5.1%、主要工業生産額約20%圧縮、国民の現金給与総額7.9%減、食と農という視点からG7の中で食料自給率が異様に低い国に成り下がってしまった、というもの。寺島講演では、埋没からの再生方向も示唆されていた(後掲概要参照)が、本稿では埋没した日本にしてしまった責任の所在を明らかにしたい。
2012年12月から第2次安倍政権が8年近く続き、安倍政権で官房長官だった菅義偉が2020年9月から1年間首相を務め、両者で約9年間の自公政権が今日の埋没した日本を作った最大の責任者と断言できる。
安倍晋三はアベノミクスなる造語の経済政策を掲げ、3本の矢(金融緩和、財政出動、規制改革を伴う成長戦略)での日本経済浮上を公約とした。結果はどうだったか?
数値データで示すと、2020年名目GDP600兆円達成は、途中で経常基準を緩和したにもかかわらず536兆円と大きく未達。金融緩和による2%物価上昇緩やかなインフレも未達。そして、国民の現金総所得は7.9%減とアベノミクスは大失敗だったことが証明されている。
日本社会は、格差拡大がますます顕著となり、消費税の2回の税率アップ、展望なきゼロ・マイナス金利政策による消費減退が常態化し、加えてコロナ禍が2年以上にわたって継続中であり、世界における相対的立ち位置を大きく後退させている。
さらに、教育分野での新自由主義的政策で、成果を短期間で求める風潮が助長され、基礎研究分野の冷遇、研究開発予算の削減、人材の国外流出など、将来の成長に向けた芽まで摘まれている現状といえる。
安倍・菅官邸が自民党を公認権で、霞が関官僚を人事権で牛耳り、その牛耳った官邸の能力が時代にミスマッチであった悲劇が今日の日本の姿となっている。
2022年5月時点でも、安倍・菅両氏は自民党の中で派閥会長として君臨しているが、首相時代の失政の責任から本来は政治の表舞台からは退場すべきであろう。また、安倍・菅の9年間を許してきた自民党、公明党の両与党も、大いに反省し、人心一新した体制で出直す必要があろう。
特に自民党は、日本再生をまじめに議論できる人材で再出発すべきであるし、再出発してほしい。
少子高齢化、人口減少、財政再建、食料安全保障など、日本の将来を方向付ける課題に対し、現実的、かつ、納得的な方向性を示す党政策を提示してほしい。その際、寺島実郎氏が提唱しているア.原点回帰の産業基盤強化、イ.技術革新産業への活力、経済思想としては、①国民の安全と安定のための産業創成、②持続可能な成長、③成長を通じた分配の拡大と公正化、は大いに参考になる提案ではないか。
【参考】
2022年5月11日寺島実郎氏講演「埋没する日本と再生への道筋」概要
1. 世界GDPシェアの没落
米国 西欧 アジア 日本(ピークは1994年17.9%)
1950年5.3兆ドル 27% 26% 15% 3%
1988年19.0兆ドル 28% 31% 6% 16%
2021年96.3兆ドル 24% 18% 25% 5%
2.21世紀に入っての20年間の日本経済の実体
世界GDPに占める割合 14%(2000年)⇒5.1%(2021年)
アベノミクスの目標名目GDP2020年 600兆円⇒実績536兆円
*2030年目標は663兆円と内閣府が発表(2021年比127兆円増)
127兆円という数字は2020年国内総製造業GDP113兆円より多い数字
しかも2013年比CO2△46%削減公約のなかでの数字
2020年の2000年対比産業別伸長率は総じて約2割圧縮
粗鋼生産 △21.9%
国内自動車生産 △20.4%
国内自動車販売 △22.9%
一次エネルギー供給 △21.0%
国民生活の現実
2000年 2021年
現金給与総額平均(残業代含む) 593.8万円 546.7万円 △7.9%
全世帯消費支出 31.7万円 27.9万円 △12.0%
光熱・通信 +11.8% こずかい・交際 -50.8%
衣服 -47.5%
教育・娯楽 -22.9%
*日本人は学ばなくなり、学べなくなっている→未来への希望が感じられない
*情報収集はSNS→専門知は膨大な情報量、全体知の欠落
新聞発行部数激減からわかる(4,740万部(2000年)⇒3,066万部(2021年)
3.DX(デジタル・トランスフォーメーション)の時代
株式時価総額が基準となる時代
*企業は時価総額以上の投資はしない、できない
ビッグテック(アップル・メタ・アマゾン・マイクロソフト・グーグル)2022.3 9.0兆$(1108兆円)
BAT(中国IT3社Baidu・アリババ・テンセント) 0.8兆$(95兆円)
日本東証上位5社(トヨタ・ソニー・キーエンス・MFJFG・東京エレクトロン) (86.3兆円)
4.埋没の例証
ア.ワクチン国内生産が未だ実現していない
イ.国産ジェット機MRJ計画のとん挫
*個別、専門分野での優位性、得意はあっても、それらをつなげる総合プロデュース力が弱すぎる⇒総合エンジニアリングの欠如
5.食と農という視点
食料安全保障の重要性再認識が必要
20世紀の成功モデル(工業生産力モデル)からの脱却
G7の食料自給率 1965 1980 2018
米国 117 151 132%
カナダ 152 156 266
ドイツ 66 76 86
フランス 109 131 125
イタリア 88 80 60
イギリス 45 65 65
日本 73 53 37
*TPP、RCEPに参加しながらも、食糧自給率を70%まで上げていく総合エンジニアリング力が必要(ファンダメンタルズへの回帰)
農業のIoT化
都会と田舎の呼応関係
耕作放棄地の見直し
食のバリューチェーンへの参画
6.21世紀の日本産業の進路
(1)戦後20世紀の日本
工業生産力モデルで鉄鋼、エレクトロニクス、自動車中心に拡大
経済思想は物量PHPの思想(Peace&Happiness through Prosperity)
興銀産業調査部、経済官僚の産業構造ビジョンなど、産業エコノミスト、総合エンジニアリング機能あった
(2)21世紀 埋没からの再生
◎ファンダメンタルズ=原点回帰の産業基盤強化
食と農 37→70%へ
医療・防災 臨床研究強化、防災拠点戦略的整備
文化・教育 人間を育てるという基盤
経済思想 国民の安全と安定のための産業創成
◎イノベーション=技術革新産業への活力
DX
グリーン
経済思想 持続可能な成長、成長を通じた分配の拡大と公正化
*2つの◎いずれも総合エンジニアリング力がKEY